Shoji

首里城火災原因と言われる分電盤事故の原因考察【分電盤の基本解説も有り】

建設

つい先日、沖縄県那覇市首里金城町にある首里城が、火災により全焼するというとても悲しく不幸なニュースが全国に駆け巡りました。

この件について、11月4日、下記の通り火災の原因がほぼ判明したとのことで、警察およびNHKニュースより発表されました。

下記、宣告ツイートした記事内容からの引用です。

那覇市にある首里城で起きた火災で、火元とされる正殿1階の北側の焼け跡から焦げた分電盤が見つかっていたことが警察などへの取材で分かりました。警察は今回の火災との関連を調べるとともに、現場の検証を続けるなどして詳しい出火原因などの特定を急ぐことにしています。

まだ完全に断定されたわけでは有りませんが、「焦げた」分電盤となると、火元濃厚ですね。

焦げ=強い火が合った証拠=火元の可能性という流れです。

この分電盤、オフィスから自宅まで、実はどこにでもある設備なんですよね。

下手をすると我々の公私問わず、火災に遭遇する可能性がありますので、「リスクアセスメント」をしつつ、その予防方法について解説します。

なお、筆者のショウジ(@jijitan85)は、建設業で監督業をしつつ、電気の取り扱いにも精通しており、分電盤や配電盤もよく取り扱いしております。

本記事の内容

  • 分電盤の基本的な性質【電源分配・自宅にも有り】
  • 分電盤の使用上の注意点【正しい使用で事故を防止】
  • 分電盤の工事・保守作業の品質不良防止に向けて
  • 分電盤が原因とされる首里城火災原因の考察

分電盤の基本的な性質【電源分配・自宅にも有り】

ブレーカーに電線を結線する状況

分電盤とは

そもそも、分電盤というのがどのようなものか、ご存知ない方もいらっしゃいそうですね。
まずは分電盤というものがどのような形状をしているのか、例として下の通り紹介します。

このように、スイッチ類(電源を入れたり切ったりするスイッチ)がむき出しになっているタイプもあれば、

上の通り箱の中に密封されているタイプもございます。

仕様については、製造メーカや求める用途によって異なってきますが、分電盤の性質としては以下の通りです。

分電盤の基本的な役割

基本的な概念として、大きく2点、下記の通り解説します。

電源の大元を入力させ、複数の負荷に分配する

簡略化すると、下記の通りです。

電気回路ごとに電源の入切を可能とするブレーカがあります。

これは回路を保護する(トラブル発生時、自動的に電気を遮断する機能を持つ)目的のために必ず必要となるものです。

既製品の分電盤には必ずついているため、大丈夫です。自作された場合はついているかどうかはご自身でチェックしてみてください。

負荷単体で電源を遮断できる装置を備え、大元を遮断しなくても電気回路を制御できる

これについては、下の図の通りのイメージです。
分電盤の動作

図より、家の1階の電気回路に何らかの不具合があり、対象のブレーカが自動的に回路を遮断た状況となります。

ですが、2階と地下の電気回路は特に異常ないので、切る必要はありません。

切れると、家の電気が全部使えなくなってしまいますね。

図のようにどこかに不具合が発生しても、関係ないところはそのまま電気を使えるようにする機能が、分電盤にはあります。

このような装置が内蔵されているのが、分電盤です。

物によってはさらに高度なシステムを組み込んでいるものもありますが、基本的には「電気を分配し、必要に応じて入切を行う」と覚えておいてOkです。

分電盤は、自宅にもあります

ヒーターを使いつつ、ドライヤーを使いながら電子レンジも使った…など、電気を使いすぎると家が真っ暗になった経験(ブレーカが落ちた)ありませんか?

電気を必要以上に使いすぎると、電気器具や電線に負担がかかるため、それを保護する目的で自動的にブレーカが切れます。

ご自身やご家族の方などがブレーカを入れて復旧されたことと思いますが、このように自宅の電気を守るために分電盤は必ずあります。

実は身近なところに分電盤はあるため、首里城の火災事件は決して他人事ではないのです。

なお、分電盤については「電気保安協会」などの調査業務を経済産業大臣の登録を受けた「登録調査機関」にて4年に1回、無料点検をされています。

例として、北海道では、北海道でんき保安協会さまなどが実施されています。

不安な方は、ご自身のお住まいに根付いている「電気保安協会」さまなどで、登録調査機関をご確認されると良いかもしれません。

分電盤の使用上の注意点【正しい使用で事故を防止】

分電盤の内容物

分電盤の基本的な概念については以上となります。
これからは、分電盤の使用上の注意点や、起こりうる災害の型(種類)について考えてみましょう。

分電盤の使用上の注意点

分電盤を使用するにあたり、「電気を取り扱う機器」という認識を忘れてはいけません。

基本的なこととして、

  • 雨や雪が直接当たらない
  • 極端な高温・低温下に直接配置しない
  • 連続して振動衝撃が発生する場所に取り付けない
  • 大きな衝撃を与えない
  • 濡れた手で触らない
  • 関係者以外触らない

は、守りましょう。

電気の専門の方ではなくても感覚的に納得いただけるかと思いますが、それぞれ理由を記載します。

分電盤の注意事項を守る理由

雨や雪が直接当たらない

分電盤では電気を取り扱っています。電気は水と相性が悪いため、雨や雪が直接当たらない場所に設置してあるのが通常です。

しかし、経年劣化なので雨などが入り込んでくるものもあるかもしれませんね。

しっかり点検し、必要に応じて補修しましょう。

極端な高温・低温下に直接配置しない

高温・低温で機器が破損・変形する恐れがあります。
また、高温下では、使用する電気の量に(許容電流)影響を与える場合もあり、オススメしません。

保守・点検も大変ですので、可能ならこのような場所に分電盤を設けることは避けた方が吉ですね。

連続して振動衝撃が発生する場所に取り付けない

微振動でも、長い期間晒されると分電盤の内容物を止めているねじ・ビスが緩む可能性があります。
また、ブレーカなど、電気を安全に機能させる部品にも疲労・劣化などの悪影響があります。

大きな衝撃を与えない

大きな衝撃が与えられると破損するばかりか、勢い余って感電・地絡・短絡が発生してしまう可能性があります。

なお、感電・地絡・短絡とは、簡単に説明すると、

  • 感電:人体が電気に晒され、痺れる(最悪、死ぬ)
  • 地絡:電気が壁や地面などに接触し、接触面へ電気が流れる(火災へつながる可能性あり)
  • 短絡:電線同士が接触し、激しく電流が流れる(火災へつながる可能性あり)

厳密にはちょっと違うのですが、専門用語が増えるため、概略として上記の通り覚えていただければ問題ないかと。

死に至ったり、火災に至ったり、分電盤が壊れると危険しかありませんので、破損に注意です。

濡れた手で触らない

先述しましたが、電気と水は相性が悪いです。濡れた手は電気を通しやすくなっているため、感電リスクが高まります。

関係者以外触らない

当たり前のことですが、誰彼構わず触ったりして良いものではありません。

不特定多数の使用により電気が止まったり、事故が起きると大変です。

企業であれば責任者が保守点検し、一般家庭であれば原則触らないようにするのが良いでしょう。

分電盤の工事・保守作業の品質不良防止に向けて

リレーを交換する人

以上を念頭に、事故が起きないためにはどうするか?を考えてみましょう。

「施工時の品質不良なし」と「保守点検時の継続的な異常なし」の確認こそが、事故防止につながります。

分電盤施工時の品質不良防止

品質不良点の代表例

・分電盤内容物が緩んで落下・離線(電線が外れる)する
・通電時、地絡・短絡が発生する

品質不良の防止対策

  • 施工完了後にビス類の締め付け確認を行う
  • 回路図と施工現物の照合を確実に行う
  • 通電後、テスターで正しく電路が構成されていることを確認する

分電盤保守・点検時の異常確認

保守点検時の異常例

・分電盤内のビスの緩みの発見
・紙類など、不要なものが収められている
・雨水や小動物の侵入痕跡の発見
・著しい汚れやサビの発見
・異音、異臭の発見
・過熱の発見

保守点検時の異常対処策

  • ビス類の締め直し・締め付け確認を行う
  • 分電盤内の不用品は取り除く
  • 清掃を行い、劣化部品は早急に取り替える
  • 雨水や小動物の侵入経路を特定し、閉口処理を行う
  • 異音、異臭箇所の特定し部品交換する
  • テスター等により、電圧電流が正しい値であることを確認する

上記の通りです。

当たり前のことといえば、当たり前のことなのですが…。結構疎かにされることがあるのが分電盤です。

以上を放置していると、これまで記載の通り感電や火災事故につながる恐れがありますので、施工・保守ともに危険のリスクを排除しましょう。

分電盤が原因とされる首里城火災原因の考察

消防隊員によるレスキュー活動

これまでを考えると、以下のような不具合があったのでは?と想定します。

  • 器具の緩みがあった
  • 電線類の過剰な接続
  • どこかから、漏電していた
  • 燃えやすいものが分電盤にあった
  • 部品劣化に伴う、性能の低下
  • 分電盤の扉開閉時に、電線類が一緒に挟まり電線破断した
  • 小動物侵入による、電線のかじり、地絡・短絡の発生
  • 性能を度外視した改造の実施

一般的な不具合例から、上記の通り推測します。

特に気になるのは「改造」の有無ですかね…。
当たり前ですが、入力される電源に見合う分だけしか、電気は配れません。

後から「電気がもっと必要になった」からといって、安易に負荷を接続(過負荷)しまくると大変なことになります。

電気を使うと、多かれ少なかれ「熱」が発生します。電線や器具には「電気抵抗」というものがあり、電気の一部はその抵抗で「熱」に変換されます。詳しくはWikipedia(ジュール熱)を参照ください

電源タップの「たこ足配線」がよく無いとされる理由はこの「熱の発生」が原因でもあります。分電盤でも、何でもかんでも繋ぎすぎると、過熱から火災へと至る可能性があります。

首里城ではこの辺りの電気回路がどうなっているのかを知ることはできませんが、日常の巡視点検で異常が見られないとしたら、

  • 過負荷による過電流(過熱)の発生
  • 長期にわたる電気機器・電線の劣化
  • 日常点検の見落とし箇所あり

の線が濃厚では無いかと推測します。

なお、上記において点検者を非難するつもりは一切ないことを、ここに明言します。そもそも、点検し報告する者と、報告を受け管理する者がいると思いますので、一概に点検者が悪いとはいえないと思います。また、具体的な「日常の保守方法および点検回数」も知らないので、外野からとやかく言う権利はないと考えています。

上記の考察を自戒とし、私も日常の電気の取り扱いについて、改めて「しっかり見直そう」と考えさせられました。

分電盤火災の万が一に備えて

なお、万が一の火災に備え、初期のうちに消防用設備を整えておくべきでしょう。

  • スプリンクラー設備等の取付け
  • 消火器の適正配置

それにプラスし、避難経路の確実な周知(誘導灯配置など)も必要ですね。

特に歴史ある建造物には、このようなものを後付けするのは嫌われる傾向にあります。
私としてはそれと消火設備の取り付けは別物だと考えています。

歴史あるものを維持することは困難ですが、消える時は一瞬です。

そのようなリスクに対し、「そのままの状態」でいるが、いつも良いことだとは考えません。

首里城のニュースは本当に残念でしたが、この事件を教訓にしない手はありません。

様々な天災、災害が起きた場合に損傷を最小限にとどめ、人的災害を抑制できる方法を、検討するべきではないかとも考えました。

分電盤事故が撲滅できるよう、本記事の情報を参考に、皆さんの分電盤も点検を怠らないようにしましょう。

追記:延長コードの件

2019年11月7日に新情報が入りましたので、その件についても記事にしております。
よろしければ、合わせてご確認ください。