Shoji

【石綿】建設業と負の遺産アスベスト【健康被害を被らないために】

建設

石綿(いしわた/せきめん)という言葉を聞いたことある方、どれほどいらっしゃるでしょうか。若い方であれば、聞いたことがないかもしれませんね。

別名、アスベストとも言います。知らない方は、知らない方がいいかもしれません。ですが、この石綿で、健康被害を被った方が沢山いらっしゃいます。今も、苦しんでいる方や、亡くなってしまった方、その遺族も大勢いらっしゃいます。

石綿の恐ろしさは、人体に取り返しのつかない健康被害を与える恐れがあることです。

私は石綿作業主任者技能講習を修得し、実務でも、施工管理・監督の立場から石綿除去作業に携わった経験が複数あります。学習したての頃は、その内容を知るほど、恐ろしくなったことを覚えています。

なので、その恐ろしさと二度と同じことを繰り返してほしくないという思いから、この記事を書きました。

日本で、世界で、このようなものが取り扱われてきたこと。そして、もう二度と同じ過ちを犯さないこと。そのために、共通知識としてすべての方に知っておいてもらいたい内容です。石綿は、建設業だけによらず、広く流通した物質です。是非、最後まで、お読みいただけましたら幸いです。

本記事でわかること

  • 石綿と日本の成長(高度経済成長期)
  • 石綿の特徴と、広く普及された理由
  • 石綿と健康被害
  • 石綿の完全除去を目指して
  • 石綿の処分方法

石綿(アスベスト)と日本の成長(高度経済成長期)

社会の中で成長する

周知の事実として、戦後復興から高度経済成長期を渡り、日本は豊かな国となりました。その背景として、「ものづくり」の製造業をはじめ、インフラ整備や高層ビルのための建設ラッシュなどがありました。

建設業においては、建設ラッシュと書きましたが、人が住む住宅はもちろん、職場のビル、道路、学校や病院、発電所など、現在(2019年)でも普通に使われている建設物が沢山建てられました。

高度経済期には、そのような成長の裏で、環境破壊や健康被害などの公害を生み出したのは周知の事実かと思います。環境破壊による四代公害、水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそくは有名ですね。

四代公害は比較的短期で症例がでましたが、石綿(アスベスト)は、短期ではなく長期間人体に蓄積されつつ、じわじわと身体をむしばむ物質であったため、すぐには問題となりませんでした。問題にならなかったというと語弊があるかもしれません。

1970年代に入りアメリカの裁判所は、アスベスト産業界が1930年代からアスベストの危険性を認識しつつ隠蔽を行っていたものと認定した。
―Wikipediaより

この通り、アスベストの危険性を隠すような働きがあったのです。海外では1900年初期から石綿と人体との健康に言及されてきましたが、日本国内では1975年9月に吹き付けアスベストの使用がようやく禁止されました。

その当時はまだ大きな問題として露呈されていませんでしたが、問題になったのは2005年。

石綿原料やアスベストを使用した資材を製造していたニチアス、クボタで製造に携わっていた従業員やその家族など多くの人間が死亡していたことが報道された。クボタについては工場周辺の住民も被害を受けているとの報道もあった。その後も、造船や建設、運輸業(船会社、鉄道会社)などにおける石綿作業者の健康被害が報じられ、2005年7月29日付けで厚生労働省から平成11年度から16年度までの間に、全国の労働基準監督署において石綿による肺癌や、中皮腫の労災認定を受けた労働者が所属していた事業場に関する一覧表が公表された。
―Wikipediaより

この通り、国家レベルの健康被害問題となりました。石綿は、微細で目に見えなく、呼吸から体内に入り込み何十年もの時間をかけ、人体を破壊していくのです。

高度成長期に大量に使用されたこの石綿は、負の遺産として2019年現在もなお残っています。

石綿の普及-かつては「奇跡の鉱物」、今は「負の遺産」

顕微鏡で解析をしている状況

石綿はかつて、奇跡の鉱物・夢の物質などと呼ばれてきました。

そう、石綿は鉱物なのです。

ではなぜ、石綿が広く普及されたのでしょうか。その理由を解説します。

石綿が広く普及された理由

石綿は、

  • 抗張力
  • 不燃、耐熱性
  • 電気的絶縁性
  • 耐触、耐久性
  • 親和性
  • 耐摩耗性

に優れているという性質があります。これは物質としては大変優秀なものとなります。ほぼパーフェクトです。まさに、奇跡の鉱物・夢の物質です。加えて、安価であるということが普及を後押ししました。

その多岐にわたる高性能ぶりのおかげで、石綿工業製品としてあらゆるものに使われました。一例ですが、

  • 自動車部品
  • 建設機械
  • 耐薬品性を要する化学設備
  • 船舶・輸送設備
  • 耐火材・断熱材(壁、天井等)
  • ボイラー
  • 煙突

などで使用されています。建設業で言えば、特に耐火材や断熱材として使用されていますね。つい数十年前までは、ごく当たり前に使用されてきました。

石綿と健康被害―負の遺産と言われる理由

冒頭で健康被害をもたらす物質であるとお話しした通りですが、もう少し解説します。

石綿のもととなる鉱物(クリソタイルなど、数種類あります)を加工時に切ったり割ったりする際、その目に見えない繊維が空気中に舞います。

その大きさは1本あたり直径0.02-0.35μm(髪の毛の5,000分の1)となります。それが、呼吸で取り入れられるのです。

保護マスク等がなければ、石綿はすべて人体に蓄積されます。下の図の通り、繊維といえど、鉱物。そして、針のような形状となります。

石綿の加工ステップ

この針のような繊維が、呼吸により、肺などに突き刺さります。当然体は異物として石綿の駆除をはじめるのですが、異物分解担当のマクロファージでも石綿は分解できません。むしろ、マクロファージ自体が破壊されることもあります。そうすると、死滅したマクロファージが周囲の組織に悪影響を与えてしまいます。

具体的には、肺がんや中皮腫の原因となります。病気の原因は石綿だけではありませんが、確実に、石綿は要因の一つとして認識されています。

さらにこの石綿、広く普及されすぎ、2019年現在でも世の中から完全に撲滅されてはいません。そして、砕いたりはがしたりすると繊維が舞うため、誰でも簡単に除去できるわけではありません。どのような規模を、どのような工期で、どのような手順で除去するか。安全対策は確実化を、労働基準監督署をはじめ関係各所と打ち合わせの上、ようやく着手できます。

このように、現代まで長く石綿が残っており、よく負の遺産であると言われます。徐々になくなりつつはありますが、まだ完全ではありません。もしかしたら、あなたの身近にも石綿含有物があるかもしれません。もしあったとしても、絶対に触らないでください。きちんと専門の業者に依頼して、除去しましょう。

建設業における石綿(アスベスト)取扱いと、適正な処分方法

建物を建設機械で解体している状況

石綿(アスベスト)の解体・除却の注意点

建設業では、建物の断熱・耐火材料として大量に使用されている実績があります。特に、建物の解体では、石綿撤去の有無をしっかり確認しなくてはなりません。

屋根、天井、床、開口部の塞ぎ板などなど。もしあなたが建物の管理者またはそれに近い立場で、建物の仕様がわかるものを確認すると石綿含有かどうかわかるかもしれませんね。しっかりと事前確認しましょう。

もし石綿が含有されているとわかれば、無断無許可で除去してはなりません。大気汚染防止法により、アスベスト飛散防止対策が謳われています。また、建築物解体等作業届を労働基準監督署に届出る必要もあります。

しっかりした手順を踏まず、労働者が石綿に暴露され将来的に問題となった場合、関係者全員悲惨な未来しかありません。しっかり守りましょう。

なお、石綿撤去は恐ろしい行為かもしれませんが、適正な保護具着用、アスベスト飛散抑制・防止剤の塗布、環境を整える換気装置等をしっかり対策を講ずれば、暴露を防ぐことができます。なお、この対策は、やはりプロしかできません。除却費用は補助金が発生する可能性もあります。しっかりと、プロに依頼しましょう。補助金については、国土交通省のサイトに条件等が記載されていますので、確認してみて下さい。

石綿(アスベスト)の適正処分方法

石綿廃棄物は特別産業廃棄物(特産廃)に相当するため、そのあたりのごみ箱はもちろんのこと、産廃処分場も決められた場所でしか引き取ってもらえません。

そして、収集運搬できる業者も定められています。「特別産業廃棄物の処分、収集及び運搬の許可を得ている業者」に依頼しましょう。

身近な特産廃取扱業者は、こちらから検索可能です。

石綿(アスベスト)で苦しむ人がこれ以上増えないために

石で押しつぶされている人形

平成24年(2012年)3月で石綿製品は完全に製造・使用が禁止となりました。2005年の問題発覚から、7年。対応が遅すぎる気もしますが、新しい石綿製品はこれ以上増えないということは、ひと安心です。

ですが、これから負の遺産の除去、処分にまた長い年月がかかることでしょう。ですが、先刻述べた通り、除去方法も適正な手順を踏まないと健康被害を回避することはできません。

これからを生きるものが石綿で苦しむことの無い世の中となるよう、願わずにはいられません。

建設業だけではなく、さまざまな業種で石綿製品の除去が待っているかもしれません。正しい知識でしっかりと対処頂き、安心安全な職場および家庭を築きましょう。

正しい知識で、危険を回避しましょう。長い人生、いつまでも、ゼロ災で行こう。